(9)家族の集い《10月―天国と地獄のあいだには》 ~2002年10月の記録 ∬第9話 家族の集い 昼食は時間をかけて用意することにした。 焼きナスをたっぷりと。カバック(ズッキーニ)はグリルパンを使ってきれいな焼き目を付け、にんにく入りのオリーブオイルでマリネする。大根をレンデ(おろし金)で細長く下ろし、日本から運んだホタテ缶と混ぜ、マヨネーズとレモン汁で味を調える。トマトは賽の目に切り、同様に小さく切った白チーズと合え、乾燥バジル、オリーブオイル、塩、レモン汁で調味する。これで前菜4種が出来上がり。 メインはチキングリル。塩コショウをし、オリーブオイルでカリッとするまで焼くだけだが、これにビベリエ(ローズマリー)の香りを加えると、簡単ながら風味豊かなグリルに仕上がるのだ。チキンから出た旨みを含んだ油でサイコロ状に切ったジャガイモを色付くまで焼き上げて、付け合せも完了。 すべて、我が家の定番メニューばかり。 果たして、トルコ料理以外の料理を普段まったく口にしない田舎の家族に喜んで食べてもらえるのか、恐る恐る家族を食卓に呼んだのだが、これも杞憂に終わった。 すべてきれいに食べ尽くしてくれ、特に大根のサラダが気に入った様子。田舎のパザールでも最近は大根が出ているそうだが、トゥルプにしろ大根(ジャポン・トゥルプという)にしろ、食べ方は薄くスライスして塩とレモン汁を振るだけ。マヨネーズで合えるとは想像も付かなかったようだった。 満腹になり、ゆったりとくつろいでお喋りに花を咲かせている家族を見ながら、私はこの4日間、嫁としてできる限りのことはやったという達成感と爽やかな疲労感に包まれていた。 夕刻、ケーキに蝋燭を立て、ささやかな誕生パーティーが始まった。と同時に、昨年の誕生日のことも思い出された。アンタルヤに越してきたばかりのことで、私たち以外誰も祝う人がいなかったことを。 たくさんの家族に囲まれて誕生日を迎えることができること。祝ってくれる人がいること。家族がいることの有難みをあらためて感じた誕生日となった。 午後7時半、夜行バスの出発を見送りながら、私は晴れ晴れとした開放感で満たされていた。 今度はいつ何時来てくれても、もう大丈夫。 この4日間の経験が私にとって心強い自信となったことは確かだった。 つづく ∬第10話 天国への階段 |